KAMINOGE COMMUNICATION DESIGN

GRADUATE STUDENT INTERVIEWS

02 黒田潔

日本で唯一夜間に開講している美術大学のデザイン学科……
どんな日常? どんな教育? どんな将来?
それを知るには卒業生に訊いてみるのがいちばん。というわけでスタート
したのが、“GRADUATE STUDENT INTERVIEWS”。第四回目はフリーでインテリア/プロダクトデザイナーをされている川野博さん。海外のデザイナーとの交流も頻繁に行っているようですが、大学時代から既にフリーでやっていく為の基盤となる活動を積極的に行っていたようです。

──入学した経緯を教えて下さい。

工学系の大学を卒業した後、外資系の製薬メーカーで営業をしていたんです。営業職自体に不満はありませんでしたが、ずっと製薬業界で営業を続けていくことには疑問が残りました。「では本当は何がしたいのか?」と考えたときに、生活用品やカフェ等の空間の提案・企画が面白いのではと感じ始めました。そこから発展してインテリアデザインという分野に興味を持ち始めたのが30歳(2001年)の時です。造形表現学部(上野毛)のデザイン学科には社会人入試を受験して入学しました。

──入学してからの学生生活はどうでしたか?

入学してすぐの時はまだ専攻コースに分かれていなかったので、いろいろな人がいるなぁと思いました。必然的に専攻が異なる学生同士が関わることになる点が上野毛の面白いところだなと感じましたね。また、実際に社会人として会社に勤めながらの方もいましたが、僕の場合はすでに会社を辞めていたので、厳密な意味での社会人ではありませんでした。

──夜間部という部分に関してはどう感じていましたか?

前に行っていた工学系の学校は昼間部でしたが、それとは境遇が異なるからどうでしょう、比較は難しいです。でも、昼間部がうらやましい? と聞かれても、必ずしもそうとは思いません。社会に出て、いろいろなデザイナーの方々に会いました。もちろん僕の限られた印象ですが、皆さんの出身は本当にさまざまです。桑沢デザイン研究所や、金沢美術工芸大学だったり。工学部建築学科出身の方、また独学の方も少なくありません。そうなると昼間でも夜間でも実はあまり関係ないのではという気がしますね。

──在学中に既に事務所を立ち上げていたのですか?

事務所というわけではないですが、在学中に活動を開始していました。社会人学生と言われていたけど実際は社会人ではないし、学生ではあるけれど年齢的に焦りを感じていました。普通に事務所に入って2、3年勤めた後に考えるのでは年齢的に遅すぎるし・・・、現実的に今できることをやらないとまずいと思ったんです。そこで、2年生の時に家具を作りはじめました。家具といっても自分で木を削ってということではないです。基本的なアイディアさえしっかりしていれば、加工専門家の方々の協力を得ることで、実際に形になり得ることを知り、 ストックホルム国際家具見本市の若手デザイナー向け部門であるGreenhouseに出展するということを意識し始めました。Greenhouseでは、若手デザイナーや学生が自分たちのプロトタイプを出展します。各家具メーカーは新商品を展示していて、彼らも見に来てくれますし、プレスや建築関係者の方も来場するので、Greenhouseに対する注目度は高く、ここから製品化につながる可能性もあります。多くのヨーロッパの国際家具見本市ではこういった若手デザイナー向け部門が用意されているんですよ。

──見本市とはどのように出会ったのですか?

もともと北欧のデザインが他のヨーロッパのデザインと比べておもしろいと感じていたのですが、とにかくピンとくるものを探していたんです。メジャーなデザイナーだけではなく、マイナーでも自分がホントに好きなデザイナーを探そうと思い、僕の場合はスウェーデンのデザインにたどり着きました。当時はSwedish Style Tokyoというイベントが毎年スウェーデン大使館で開催されていました。Swedish Style Tokyoのプレスの本間のり子さん(当時)を通じて、ストックホルム国際家具見本市の情報を教えてもらったり、スウェーデンから来日したデザイナー・建築家の方々に直接相談したりしていました。交流のなかで「Greenhouseに出してみたら?」と言われ、まずは見てみようと思い、2年生の2月(2005年)に下見に行きました。実際に見に行ったら、自分の現状とその場に展示されていた作品との差は歴然で、Greenhouseに出展するにはかなり努力が必要だと感じました。Greenhouseでは事前に出展審査があるので、とにかく審査をパスできる作品を作ることに集中しました。レベルアップしないと絶対通らないと思い制作していた結果、徐々に手ごたえをつかむことができました。3年生の9月(2005年)が締め切りだったのでその間、授業の制作をしつつ同時にGreenhouse用の作品の制作をしていたので少し大変でしたね。 その後、無事審査に通って3年生の2月(2006年)に出展できたのですが、いざ蓋を開けてみると、Greenhouseの出展者は大学院を出てフリーで活動中という人が多く、30歳前後の人が結構いました。わりと自分と近い年齢の人たちなので、キャリアは抜きにして、意気投合し、コミュニケーションを取るようになりました。スウェーデンでは学校を卒業したらすぐ自分で仕事をスタートさせる人が珍しくない感じでしたね。彼らは基本的に商品化を目指してフリーで活動していますし、その辺りも自分の状況に似ているわけです。卒業してそのまま就職という進路は僕の考えには無かったですし、自分で何かやらなければいけないなという思いがますます強くなりましたね。

──その他にも在学中に自主活動はされていましたか?

もともと製薬メーカーに勤めていたということもあり、病院(山王病院・港区)とのコンタクトがありました。2年生と3年生の12月には、院内のクリスマス・イルミネーションを提案し、実現の機会をいただきました。4年生の時には、国内外のデザイナー・建築家(Eva Schildtさん、VINTAさん、石上純也さん、Katrin Greilingさん、五十嵐久枝さん)を招聘し、学内で計5回レクチャーを企画しました。両活動とも、デザイン学科と環境デザイン学科の同級生と一緒に企画・運営したものです。

──在学中為になったことはなんですか?

国際家具見本市に出展している、海外の若手デザイナー達と出会えたことですね。彼らはちょうど僕と同じような目標を抱いていて、彼らと出会えたことが一番の成果でした。開催期間は1週間程度ですが、その間一緒に設営をしたり、学園祭と同じ感じでしょうか。一つの空間にフランス人、ドイツ人、スウェーデン人という感じで、1日が終わったら大体皆で飲みに行くんです(笑)。もちろん、そこで出会った人たちとは今でも交流がありますよ。大切な仲間です。

──就職活動に関してはどんな考えを持っていましたか?

もともと、いわゆる就職活動ということは考えていませんでした。でも、一度はデザイン・建築事務所を経験しなければと思い、4年生の秋(2006年)に行きたい事務所をリストアップしました。ストックホルムの著名なデザイン・建築事務所ばかりだったのですが、とにかく彼らにコンタクトを開始しました。そして、なかなか返事がもらえないまま、スウェーデンまで行ったんです。ストックホルムで苦労しながら電話でアポイントを取り、面談を繰り返す中、やっとの思いで、Jon Eliasonさんのデザイン事務所で働く機会を得ました。労働ビザが無いので3ヶ月しか勤務できませんでしたが、卒業後すぐ(2007年)そこで働いている時に「スウェーデンでは君みたいな状況の人はフリーでやっているよ。フリーでやってみては?」と言われたんです。そして、帰国してすぐにフランスの家具メーカーのligne roset(リーン・ロゼ)から「フロアランプの案はある?」との依頼があったんです。とても嬉しかったですね。「もちろん、あります!」といった感じでフリーでの活動が本格化していきました。

──展示などの活動はしていますか?

3年生の2月(2006年)にストックホルム国際家具見本市のGreenhouseに出展したあとに、ロンドンの100%east(現: TENT LONDON)からお誘いがありました。ちょうど校友会奨学金を貰ったということもあり、4年生の9月(2006年)に100%eastに出展しました。100%eastに出展したあとには、ドイツデザイン協会の方からお声を掛けていただき、4年生の1月(2007年)にドイツのケルン国際家具見本市で開催されるコンペ形式の展示であるinspired by cologne(現: d3 contest) に出展することができました。ここではそれまでのように自分でお金を出して出展するのではなく、ドイツまでの旅費・宿泊費・作品輸送料が何と無料でした。そして、ケルンで初めての商品化が決まったんです!また、Greenhouseに初めて出展した時に知り合ったスウェーデン人のテキスタイルデザイナーSara Bernerさんとコラボレーション作品を制作して、4年生の2月(2007年)に再度Greenhouseに出展しました。卒業後は、国内外(ボン、ケルン、パリ、ストックホルム、ミュンヘン、ミラノ、東京、マイアミ)の展示に参加する機会をいただきました。

──仕事をするうえでの信念はありますか?

“Always try to find valuable solutions with higher aesthetics”(より高い審美性をともなった価値ある解決案の提案を常に心がける。)
もっとできるんだけどなぁと思いつつも、締め切りが来たから終わり、というのが学校の課題だったりしますよね。でも仕事で求められるのは、まずは自分なりに納得がいく時点にまで持っていくこと。どこで完成とするのか、どこまで来たら誰かに見せてもよいと感じるのか?と考えた時に、僕は自分で美しいなと思える案ができたら出してもいいと判断しています。また、Solution「解決」ですが、単にデザイン案を出して「どうですか?」ではなくて、何かを解決をするものでないといけないと思っています。クライアント側には現状に何らかの問題があるから新商品を開発したり、こうして欲しいという要求や希望があります。デザインに関わっている人たちはそこを解決することが、クライアント側に応えることになると考えています。また、価値のない案だと彼らはお金を払ってくれないですから、相応の価値が求められます。たとえば新しい商品がある雑誌で発表されるとして、どこが評価されているかというと、まずは機能性、それから、新規性と言うか、アヴァンギャルドな部分、今までにない使用方法などなど。しかし、僕はやはり、商品そのものの美しさ・上品さという部分に可能性を感じていて、そういうものこそ捨てられないもの、未来のクラシックになるのではないかと考えています。僕は、自分が提案するデザイン案に「美しさ」を出来る限り高く、一つの要素と認識しながら提案していくことを心がけています。どんなに機能的でも美しくなければ長くは残らないし、どんなにアヴァンギャルドでもやがて飽きられてしまうと考えています。もちろん例外もあるでしょうが、日本に限らず世界中で長く愛される作品を作りたいのであれば、審美性を大切にしていかなければいけないと思います。

──影響を受けている人はいますか?

フランスのデザイナーのブルレック兄弟(Ronan and Erwan Bouroullec)です。彼らの作るものはプロポーションが本当に素敵ですよね。 TAFというスウェーデンの建築・インテリアの男女2人組の作品も美しいですよ。日本のデザイナーでは VINTAさんが素晴らしいと思います。この3組の方々からは、作風に影響を受けるというよりも、その姿勢を拝見させていただくという感じですね。彼らは、必ずしも突飛なことをしているわけではないと思います。素直に作っているけど気張っていないという感じがします。そして何よりも、彼らの作る作品自体がどれも美しいというところが惹かれる理由ですね。

──受験生・在学生へのアドバイスを。

美しいデザインは海外でも正当に評価される時代です。
国内の情報だけで皆さんそれぞれの可能性を自己判断してしまうのではなく、海外にもきちんと目を向けてみてはいかがでしょうか。また、日常会話程度の英会話だけは何が何でも身につけてくださいね!

川野 博(かわの・ひろし)
1971年 神奈川県生まれ。2004年 フリーランス・デザイナーとして活動開始。
2007年 多摩美術大学造形表現学部デザイン学科卒業。
2007年 日本人として初めてligne roset(フランス)とデザイナー契約。
2007年 interior innovation award for cologne 2007 (ケルン国際家具見本市)ノミネート。
2008年 New+Notable 2008 ; the year's smartest products(I.D.誌・アメリカ)選出。
2008年 Interior Trends 2009(ケルン国際家具見本市)選出。
川野博HP =hiroshi kawano DESIGN

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