


6月24日に開催された祖父江慎さんの講演会。
「うまくいかないことへの憧れ」。
それを徹底的にデザインに落とし込む祖父江さん。
なんとも面白いスピーチの後編です!

壇上の祖父江さんは右へ左へ歩きながら、大きな身振りで話します。
プロジェクターで、作品を見ながらのプレゼンテーション。
以下、後編のはじまりです。(前編を読む)

しりあがり寿さんの『瀕死のエッセイスト』は「うまく生きていけない味を出したい」と思って作りました。高級な透明フィルム、アリンダに印刷したり、人の手ではんこを押してもらったり、色々しました。「前向きな間違いをしたい」と思ってデザインしました。
この作品は過去を引きずっている主人公の話ですので、65ページの上に64ページの下を出しました。それぞれのページが前のページを引きずっているという構成です。なので、必ずページに前のページがついてきているんで、どこのページだかちょっと分からないぞという形になっています。でも、過去を引きずってばかりいても寂しいので、最後のページだけ前のページが少しのぞいています。未来が「こんにちは」。こんな感じです。いいでしょ~(笑)。未来がちょっと見えてます。
↑ しりあがり寿『瀕死のエッセイスト』(ソフトマジック)のあとがきページ。ページの下に次のページの上部が見える。
多くの物質は「うまくいっていない」っていうことが存在の独自さにつながるっていうこともあります。例えば、足が短い人はさらに足を短くさせた方がかっこいい。髪の毛の薄い人はもっと薄めな感じにすれば、魅力につながるかもしれない。つまり、そのそれぞれのうまくいかなさを大切にしつつ共に生きるということが大事だと思います。
しりあがり寿さんの代表作『弥次喜多 in DEEP 廉価版』は、映画化されるにあたって値段の安い本も作りたいということで始まったんですが、最初のほうは1つの章が短くて、後ろの章になるにつれてページ数が増えていくんです。お話の内容ごとに分冊すると分厚くなっていったんです。そういう特徴が発見されたので、そこを大事にしようということで、だんだんと太っていく本になりました。背もだんだんと太っていって、なかなかいい具合いですね。
↑ 『弥次喜多 in DEEP 廉価版』(エンターブレイン)。背の厚さもイラストも巻を重ねるごとに太っていく。
お祭りに行って、屋台で綿菓子とか買っても、その袋にはちゃんと正しいポケモンの絵があって、©が入っていたり、輪投げ屋で置いてあるドラえもんが正しいドラえもんだったり。昔だったらお祭りとかで売っているものは「パチもん」でしたよね。「パチもん」の綿菓子の方がおいしいような気がしたし、「パチもん」のドラえもんのほうがうれしいじゃないかと思うんですが、みなさんどう思いますか?
ニセモノがこんなに生きにくい時代というのも、そうはないんじゃないかと思います。やっぱり著作権という問題が色々あると思うんですけど、たとえばトカゲだったら「もどき」という生き方があるように、デザインの世界でも「もどき」があってもいいんじゃないでしょうか? デザインは何かといえば、「形」を持つことだと思います。ものを正確に伝えるのがデザインなのか、というと怪しいです。相手に伝えるには、言葉のほうが伝えやすいですが、言葉は時代や場所によって変わってしまいます。相手と自分の言葉の壁をうめてるうちに何を伝えようとしたのか忘れちゃったりしますよね。
とにかく、キチンキチンとやろうと思いすぎないこと。大切なのは「うっとり」ですね! 僕のキーワードは「うっとり」。もう一個のキーワードは「だいたい」。最後のキーワードは「こんにちは」。この3つをふまえてデザインすると、とてもいいんじゃないかと思います。何を見てもはじめて出会った気持ちで「なんかいいな」とか思うのが大事なんじゃないかと思います!
ここで学生からの質問の時間。
↑ みなさん、巨匠を前に緊張してか、なかなか手があがりません。すると一人が…
──いま祖父江さんが言った3つのコンセプトの「こんにちは」は、どういう意味ですか?
僕の場合は本のデザインが多いんですけど、たとえば小説の内容を分かりやすくヴィジュアルで解説してしまうと内容が別のものになってしまうこともあります。だから逆に実用書は分かりやすそうな説明的なデザインが似合うかもしれないですが、デザインで言いかえたり、おきかえられたりできることなんてそんなにはありません。漫画については面白さを説明しちゃうと、とたんにつまんなくなっちゃうでしょ。単純に、本の表紙の場合、デザインには挨拶する程度のことしかできない。形のことを考えたときにはご挨拶くらいがいいと思います。
──隠れたおもてなしがあればいいという意味ですか?
そうですね。本の内容の入り口が「こんにちは」なのか、「ヤッホー」なのか、「おはようございます」なのかっていうくらいのひと言めの状態を、大事にした方がいいんじゃないかと思います。
もう一人による質問です。
──お仕事をされていてアイデアがなくなったことはありますか?
昔はあったんですが今はないんですよー(笑)。アイデアは自分のなかからさがしてちゃダメなんです。自分の外にあるんです。でも、もしスランプになっちゃったときは、違うことをしちゃいます。この頃は依頼がきて、「来週までに考えます〜」とか言っていても、実はその場でできてたりするんですよね。約束のシメ切り1時間前にそのことを思い出してラフなデザインに起こすことが多いです。うまくいかないときは、仕事以外のことで普段できないやりたいことをやっちゃう! そして、そんなときにはラッキーって思うのが秘訣かなーと思います!
学生の質問に終始笑顔で答えてくれた祖父江さん。講演を聴いた中から、未来のブックデザイン界を担う逸材が誕生するといいですね! 最後に学生たちと撮影した、祖父江さんによるナイスポーズをどうぞ。


