


日本で唯一夜間に開講している美術大学のデザイン学科。
学生たちはここでどんな活動をしているのか?
“STUDENTS INTERVIEWS”では、上野毛のデザイン学科に通う
学生たちが「上野毛デザイン」の魅力を直接語ります。

第10回の“STUDENT INTERVIEWS”は、
千原航先生の総合デザイン演習ゼミ「現実」と、
東泉一郎先生の基礎デザインDII「失敗実験室」の
それぞれ最終日の授業をダブルで取材。
校舎をかけめぐり、ゼミと授業をそれぞれレポートしていきます。
まずは千原航先生のゼミへ。グラフィックデザイナーとして幅広い活動をしている千原先生の授業は、多摩美でも大人気です。早速授業の主旨を伺うと…。
「2007年からデジタルコミュケーションコースで『妄想』という授業をやっています。流行りのものを適当にマネしてキレイに整えて済ませる学生の作品が増えたら嫌だな、もっと無茶して欲しいな、と思っていたので、少ない情報量や個人の記憶だけでものを作らせてみようと考えて、想像力と独自性を刺激する課題を与えています。その結果、非常に面白い作品が見れるようになっているのですが、『おかしな想像力最高! 今の自分のままで社会に受け入れられたい!』と思い込むのもちょっと危険なので、『目を覚ませ!』『こっちも見ろ!』的に、プチ社会勉強をするのが、今年から行っている『現実』となります」 (千原先生)
なるほど、なんだかスゴそうですねえ〜。
「ゼミには3つの柱があります。1つ目は地域密着型の公募に応募する。社会との小手調べを経験します。2つ目はゼミ生全員がグループを組み、作った作品を外部に本気で営業にかける、というものです。結果をゼミで報告します。3つ目はゲストの講義を受けて感想文を書く、というものです。講義はただ聞くだけだと頭に残りにくいものですが、感想文を書くことを前提に聴くと記憶の残り方も違いますし、人によって感想が違うことも確認できます。感想文は全部まとめて冊子にして、ゲストの方にお渡ししているのですが、喜んで受けとっていただいています」(千原先生)
学生自身からのフィードバックがないと一緒にやっている意味がないと話す千原先生。いろんな実験を学生と試みます。
↑ プロジェクターに映し出される作品を楽しげに見つめるみなさん
一人ずつ発表を終えるなか、「リンゴの切り身に股がる姿が本気でかわいい! 入選して欲しい(笑)」と千原先生おすすめの作品「リンゴマン」を発表したばかりのビジュアルコミュニケーションコース3年の倉橋弘さん(20)。
↑ リンゴのキャラクターがかわいい倉橋さんの作品「リンゴマン」
「私が応募した『りんごアートコンテスト』は、りんごに関係していれば立体から平面、リンゴを使った料理など、なんでもありという長野県のりんごをもっと知ってもらうためのコンペです。このゼミでは、個人で公募に出すものとグループ課題、そしてゲストの方の講義を受けた後の感想文を書く作業を並行してやっていくので大変でしたが、すごく楽しかったですねえ」(倉橋さん)
↑ 真剣な表情で発表前の打ち合わせをする「ishocc」のみなさん
続いてグループ課題です。「愛するあなたへの悪口コンテスト」というおもしろいコンペに注目をしていたビジュアルコミュニケーションコース3年の平井久美子さん(29)のグループ「ishocc」の、木内南和さん(21)、藤山綾子さん(25)、赤桐舞さん(25)のグループ課題は?
「5人で『ishocc』というグループを組み、料理を作っている過程を本にまとめました。お母さんと子どもが一緒に料理を作れるように、写真を見てすぐに同じ切り方、料理の進め方が分かるようになっています。子どもに分かり易くするため、文字は最小限に押さえ、絵本のように作りました。料理の過程を映像にしたものも本を補うもうひとつの楽しみとして作ったのですが、千原先生には『DVDの映像と絵本の関係がアンバランスじゃないかな』という指摘をされ、現実を意識して作り上げることの難しさを実感しました」(平井さん)
「千原先生のゼミは学校っぽくないのが本当に面白かったです。いろんなコースの人とのグループワークはいい刺激になったし、千原先生が呼んでくれたゲストの方の話を聞くことで外の世界も伺えます。ゼミは受け身ではなく自主的に動いた方がさらに楽しめると思いました」(ishoccのみなさん)
休憩時間に入り、東泉一郎先生の「失敗実験室」の授業が行なわれている教室へ移動してみました。「失敗実験室」とは失敗を恐れることなく、チャレンジなものを作る。失敗を実験するワークショップです。
↑ 作品は一つずつじっくり見て行きます
「学生の多くが、もの作りがしたくて上野毛に来ているはずなのに、自分が何をやりたいのか、何をするべきなのかがなかなか具体的に見つけられていないんですね。思いっきり『指示&許可待ち』。型通りじゃないことを恐れている学生が本当に多いんです。そこで学生のみなさんには自分なりの新しい表現をして欲しいので、『これを作りなさい』などと言わずに、自分でやるべきことを見つけていくための手助けをこの授業では行いたいと思っています。『教える』ということとは、ちょっと違うやり方をしたいんですね。もちろん、この授業自体も失敗する可能性がありますから、これを全力投球でやっていくとすごく疲れます(笑)」(東泉先生)
↑ 映像作品も多数発表されます
教室で圧倒的な存在感を出していたデジタルコミュニケーションコース2年の矢吹安理さん(21)の作品についてお話を聞いてみました。
「授業の始めに東泉先生から『新しくてクレイジーなものをあえて作ってください』と言われてすごく迷いました。いろいろ考えて、私は文字を書くことが好きなので、それをすごく長い行で永遠に書く作業をやってみたいと思ったんです(笑)。今までやったことがないようなことができたのが嬉しいですね!」(矢吹さん)
↑ 10mの習字紙に描かれた矢吹さんのつぶやき
偶然授業を観覧に来ていた『BRUTUS』副編集長の鈴木芳雄さんを発見。
鈴木さんにも授業に参加された感想を聞いてみました。
「卒展とか講評会にいつも呼ばれて思うのですが、1年生でも4年生でも作品の根本的な部分は変わらないですよね。勉強をすれば技術的なスキルは伸びるかもしれませんが、表現したいことは変わらない。逆に1年生の方が、技術は稚拙だけど『ため』があったりしておもしろかったりします。若いうちだと『そうだ! こういうのがしたかったんだ!』というエネルギーがありますから、もしかすると卒展にも負けない作品ができたりするのではないでしょうか? 『何を表現しようかな?』ではなく『表現せずにはいられない!』という熱いスピリットを持ち続けて欲しいですね。卒業して仕事につくと、ほんとに仕事になってしまいますから」(鈴木さん)
「僕自身すごく勉強になります」とお話しいただいた鈴木さんでした。
↑ みなさんの作品をプロジェクターで映す千原先生
最後にゼミ「現実」の最終日を終えた、千原航先生に授業の総括を伺いました。
「学生には、ゼミで勉強したことをこんな職業に活かして欲しいとかそんな具体的なことはなくて、好きなことをやって欲しいですね。創造的な人は何をやっていてもその才能を発揮できるもの。だから全員がデザイナーになる必要もないんです。学生には『手を動かさないと始まんないよ』とか、『作って人に問わないと良し悪しは分かんないよ』とか話すのですが、美大で伝えられることは、ものの成り立ち方や伝わり方、価値観や選択肢の多様性くらいかな、と思っています。このゼミを受けた後にもの作りをすることが楽しくなっていたら嬉しいですね」(千原先生)
学校の課題から自主制作など、時間がいくらあっても足りないと話す学生たち。限られた時間のなかで、あっという間に1年が過ぎてしまいましたね。今年もがんばりましょう!
ご紹介できなかった千原航先生のゼミ「現実」の優秀作品はこちらから見ることが出来ます。是非ご覧ください。

